お子様があまり噛まずに食べていませんか。
現代私たちは多くの食べ物に囲まれて生活しています。
食べ物の中には固い物や軟らかい物、ゼリー状の物からソース状の物まで多様な食べ物があります。
また、食べ物はより食べやすく改良され、またスムージーのように飲んで栄養を摂る物もあるなかで、
思えば子どもの咀嚼する機会が少なくなっていると感じる方もいると思います。
そもそも、なぜ食べ物を咀嚼する必要があるのでしょうか。
噛んで栄養を摂ることと、噛まないで飲むように栄養を摂ることにはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは食べ物を咀嚼するメリットを解説しています。
子どもの食育だけでなく、大人にも共通のメリットなのでご参考ください。
食べ物を咀嚼するメリット
①食べ物の安全を確認し嚥下する
まず第一に噛んで食べる目的として、「安全に嚥下するため」が挙げられます。
私たちは普段から食事を介して栄養を摂っていますが、
食べ物を身体に取り込んで栄養とするためには、まず口へ運んだ食べ物を咀嚼して食塊とし、
その後嚥下をおこない胃腸へ食塊を送り、消化と吸収を経て栄養素が身体内に取り込まれます。
この過程で、咀嚼することによって嚥下のタイミングを調整し、誤嚥(食塊が誤って気管に流れること)しにくくなります。
また、食べた物そのものが安全であるかを確認する作業も同時に行っており、噛むことは身体にとって無害なものを摂るフィルターの役割を担っています。
よって、噛んで食べることを意識して安全に食事が摂れるようにしましょう。
咀嚼と嚥下についてはこちらのページで解説しています。
②口腔の衛生な状態を保つ
噛むことは単に食事の嚥下のためだけではなく、口の中(口腔)の衛生を保つメリットもあります。
噛むという物理的な運動が口腔で起きることで、歯や歯肉、口腔組織などが刺激されます。
その刺激によって口腔内の血流を良くし、口腔組織に関わる代謝を促しています。
また、食事を咀嚼するとき口腔で唾液が分泌されます。
唾液はばらばらだった食塊をまとめる役目を担っていますが、
その唾液には抗菌作用があるため、噛んで唾液を分泌することで菌の繁殖を防ぎ口腔トラブルの予防に働きます。
子どもの口腔の衛生を保つためにも、噛んで食べることの食育が重要です。
③口や顎などの発育を促す
食事を噛む際には口や顎の筋肉を使って運動しています。
この運動によって口腔としての発育促すほか、顎や口腔に関連する組織器官の発育も促しています。
食事を噛むときには口と顎の運動が欠かせません。
この運動で口や顎を司る筋肉や骨に負荷がかかり、筋肉や骨の成長を促しています。
これから成長する子どもにとって、普段の食事からしっかり噛んで食事を摂ることで、
日頃から習慣的に筋肉や骨のトレーニングをしていくことが有効です。
④食べ物の消化を助ける
食べ物を噛むことは、食べ物の消化と吸収にも大きな役割を果たします。
食べ物を咀嚼すると、口腔内で唾液が分泌されますが、
唾液の中には炭水化物を消化するアミラーゼという消化液が含まれており、噛むほど炭水化物を消化しやすくなります。
その他にも咀嚼することで胃液や膵液といった他の消化液の分泌を促すことが明らかとなっています。
また、噛む回数を増やすほど唾液の分泌が食べた物が細かくなり、食べ物の表面積が広くなるため
消化するための消化液がより食べ物全体に届きやすく消化効率が高くなります。
その他、咀嚼するほど消化管の血液流量が多くなることも分かっており、消化管の機能を高めることに繋がります。
消化の効率を高くすることは同時に栄養の吸収効率も高くなるため、咀嚼は栄養の吸収においても重要な役割を担っています。
まとめると、食事から栄養を摂る過程では、食材がそのままの形では十分に栄養を吸収できないので、咀嚼することで消化吸収に適した形に整えて効率を高めています。
子どもは消化や吸収の能力も完全ではないため、よく噛んで食べることで負担なく、そして効率よく栄養を摂れるようにしましょう。
⑤脳を活性化させる
噛むことは脳の活性化に貢献しています。
噛むという行動のなかで口と顎の運動による刺激や、口腔内では歯や歯茎の刺激など、ひとは様々な刺激を受けています。
その刺激は脳に伝えられ、脳がその刺激から食べ物の種類からどのような咀嚼が良いかなどいろいろと判断して身体に指令を送っています。
この咀嚼という刺激が脳に伝わると、脳内の血流量が増加することが分かっています。
これは咀嚼すると歯根や咬筋の刺激が三叉神経を介して脳の血管に伝わり、血管を刺激しているためで、
血管に刺激が伝わると血管が拡がり心拍数が高まることで脳内の血流量が増えます。
この脳内の血流量が増えることで脳の機能が活性化しやすくなることから、
咀嚼する子どもほど学習能力や判断能力などの向上がみられるとの研究報告もあります。
普段の食事からよく噛む教育をすることは、
子どもが習慣的に脳へ刺激を送ることができ脳の活性化へ繋がります。
⑥過食による肥満を防ぐ
食べ物をよく噛むことは、肥満を防ぐ役割もあります。
肥満となる原因のひとつに過食があり、その食事の摂りすぎの背景には食事を早食いしているケースが多くあります。
早食いはなぜ太りやすいのでしょうか。
食べ物を噛むと、GLP-1やレプチン、コレシストキニンといった満腹感を増大させて摂食を抑制するホルモンが分泌されます。
また グレリンという食欲を高めるホルモンの分泌が抑えられます。
つまり、食事を噛むほどに食べるのを抑える方向にホルモンの分泌が傾き食事の満腹感が高まるので食事を摂らなくなります。
一方、早食いでは食べ物を噛む回数が少ないため、
早食いするとこの摂食抑制ホルモンが分泌されないまま食事が進み、満腹感を感じにくいため必要以上の食事を摂る過食となってしまいます。
また、咀嚼するほど食事誘発性体熱産生が高まることが分かっています。
食事誘発性体熱産生とは、食べ物を摂った後にエネルギー消費を高める現象のことで、ひとの身体に備わっている作用です。
早食いすると咀嚼回数が減ることから、その食事誘発性体熱産生によるエネルギー消費量が少なくなり十分なエネルギー消費が行われずに
消費しなかったエネルギーが溜まっていくことで肥満を誘発します。
このように、噛むことで過食を抑え、さらにエネルギー消費を増すことで肥満を防ぐとに繋がります。
ある調査では子どもにおいても肥満の子どもほどあまり噛まなくても食べられる柔らかい食べ物を好むという結果が報告されています。
今だけではなく、将来的にも肥満になりにくい食習慣ができるように子どものときからよく噛んで食べる習慣を付けておきましょう。
⑦心理的にリラックスする
食べ物を噛むことにより、食べ物を得たという手応えから心理的な満足感を感じやすく、リラックスしやすくなります。
ひとにはコレシストキニンというホルモンがあり、
このコレシストキニンは不安や焦りを抑えたり、精神を安定させたりといった心理的ストレスの軽減作用があります。
コレシストキニンは食べ物を咀嚼する運動刺激で血中に分泌されるため、
咀嚼すると緊張が緩和されて心理的ストレスの軽減に繋がることが明らかとなっています。
この作用から、子どものメンタルヘルス対策として
食べ物をよく噛んで食べるように促してみましょう。
何回噛めばいいのか
では、ひと口で何回噛めばいいのでしょうか。
現在のところ、具体的な回数の推奨はされていませんが、
咀嚼学会では「目安としてひと口で30回」噛むことが推奨されています。
咀嚼は回数を増やせば増やすほど食事時間が長くなり、上記のメリットが得られやすいと考えられます。
しかし、ひと口の食べ物を噛み続けることは現実的ではなく、
また噛み続けることで子どもにとって食事が苦痛であると感じてしまうと、
かえって食事嫌いになり重要な栄養摂取ができなくなってしまいます。
咀嚼学会の見解としても、30回はあくまで目安としており、
食べ物の種類や健康状態、味覚などを加味して、ある程度は「適度な」咀嚼がよいとされています。
子どもの食事の様子をみながら、よく噛む目標として30回を基準に子どもに合った回数を設定しましょう。
まとめ
◦咀嚼のメリットは「食べ物の安全を確認し嚥下する」、「口腔の衛生な状態を保つ」、「口や顎などの発育を促す」、「食べ物の消化を助ける」、「脳を活性化させる」、「過食による肥満を防ぐ」、「心理的にリラックスする」
◦ひと口で30回噛むことを基準に子どもに合った回数を目標とする
以上、なぜ咀嚼が必要なのか?噛んで食べるメリットを解説しました。
子どものころから噛む習慣を付けることは今後の健康的な食生活で重要な基礎なとなります。
ぜひ食育の参考にしていただければ幸いです。